校長室より

校長室より

対面式 校長あいさつ

 皆さんこんにちは。

 この対面式は、本校の生徒会への、1年生の入会を祝う会なのではないかと思います。3年生は2年前、2年生は昨年、同じように新1年生として対面式に参加しました。まさに昨日のことのようですが、月日はあっという間に経ち、そして上級生の皆さんは、しっかり成長してきたのではないかと思います。

 昨年の蕨高祭は、1年生も見学に来てくれた方が多かったのではないかと思いますが、実は1年生の皆さんが帰った後、後夜祭ということで、校庭で本格的な打ち上げ花火が上がりました。卒業生の自分にも記憶がないので、ひょっとすると本校ではじめての本格的な打ち上げ花火だったのではないかと思います。

 文化祭実行委員の生徒が相談に来たとき、とにかく前例がないのだから、そもそも実施が可能なのか、蕨市や消防署に相談するところから始まり、近隣住民の方々の許可を一軒一軒取って回るとか、課題は山積している。先生方に頼らず、自分たちでやりきる自信はあるの、と訪ねたところ、「あります、ぜひやらせてください」とのことだったので、ではまずは関係する先生方の理解をとりつけるところから始めてはどうかとアドバイスしました。

 まだこの時点では、どんな課題があるか見当もつかなかったので、まさに探究学習の「正解のない課題を自ら設定し、みんなで協力して課題の解決に挑む」こと、そのものであったわけです。

 こうして、多くの生徒たち、そして先生方の陰ながらのご尽力があって、1年生の皆さんが帰った後の校庭で、本格的な打ち上げ花火が上がりました。もちろん、少なからぬ課題は残りましたが、「蕨高生はここまでできる」ということを、大空に向けて示した瞬間でありました。

 長くなりましたが、ここからが本題です。

 今、1年生が目にしているのは、このような経験を経て、一回りも二回りも大きく成長した、偉大な先輩方です。まずは敬意を持って接していただきたいと思います。

 また、ここに並んでいる1年生は、蕨高校で、勉強にも部活動にも学校行事にも手を抜かず、文武両道を貫いて、自らの進路希望を実現したいと、大変厳しい志願倍率の中を勝ち抜いて来たメンバーです。上級生の皆さんも、ぜひ敬意を忘れず、1年生を温かく迎え入れていただきたいと思います。

 要するに、この場には、すごい2,3年生と、すごい1年生が顔を合わせ、まさに一つのチームになろうとしていることになります。この後、どんなすごいことが起きるのか、ワクワクしてきます。一緒に蕨高校を盛り上げていきましょう。以上で校長あいさつを終わります。

第68回入学式 式辞

 春の日差しが柔らかさを増し、桜の花も咲き満ちてきたこの佳き日に、本校PTA会長 目黒 正伸様、後援会会長 前田 智子様、同窓会会長 晝間 日出夫様をはじめ、ご来賓の皆様並びに保護者の皆様のご臨席を賜り、埼玉県立蕨高等学校 第68回入学式を挙行できますことに、改めてお礼と感謝を申し上げたいと存じます。

 ただ今、359名に対しまして、入学を許可いたしました。

 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

 本校は、創立68年目を迎える歴史と伝統を誇る高校です。目指す学校像として「生徒の進路希望を実現する文武両道の進学校~グローバルな視点を持ち次世代のリーダーとして活躍できる人を育てる~」を掲げ、普通科・外国語科ともに高度な授業、充実した進学補習、きめの細かい進路指導を貫き、生徒一人ひとりの学力向上と進路希望の実現に向けた取組を積極的に推進しております。

 さて、新入生の皆さんは、今日から本校で3年間の高校生活が始まりますが、高校時代は皆さん一人ひとりの人生の土台をつくるという点で、大きな意味を持っています。私は本校24期の卒業生です。皆さんの新たな高校生活のスタートにあたり、本校を卒業した先輩という立場も踏まえ、三つの心がけを皆さんにお話ししたいと思います。

 一つ目は「自分の志を立てる」ということです。

 高校の3年間で、将来自分は何を学ぶのか、どのような職業に就くのか、また、どのように生きていくのかを徹底的に考えて、進路先を決めるということです。人は誰しも、社会で果たすべき使命、役割があるといいます。とりわけ重要なのは職業です。この高校時代においては、単に大学・学部を選ぶだけでなく、大学卒業後の先にある職業についても十分に考える必要があります。どんな職業を志すか、どんな生き方を志すか、たった一度の人生を賭けて何を実現したいのかといったことを徹底的に考え、人生を構想するのです。その思いは、結果として変わっていくかもしれませんが、高校時代に真剣に考え抜いていくかどうかが、その後の人生を価値あるものにしていくかのカギを握っていると思います。

 二つ目は「グローバルな視点を身に付ける心構えを持つ」ということです。

 本校の「目指す学校像」では「グローバルな視点を持ち次世代のリーダーとして活躍できる人を育てる」と謳っていますが、「グローバルな視点」を身に付ける上で、英語の4技能を高めることは大変重要です。外国語科を設置している本校は、国際交流が盛んです。毎年のように留学生を受け入れていますが、彼らの多くは母国語のほかに英語を話します。「世界の高校生は当たり前のように英語を話す」という事実を、皆さんは目の当たりにすることになります。当然ですが、多くの大学や企業は、高い英語力を備えた人材に門戸を広く開いています。そして今、皆さんは、この「目指す学校像」を掲げる蕨高校に入学しました。まさに所謂「使える英語」を身に付ける絶好のチャンスですが、皆さんの気持ちが「受け身」のままでは、成果は期待できません。ちょっと想像してみましょう。毎日努力して英語の力を高め、高校2年生のうちに英語検定の準1級程度まで到達すれば、3年時には他の科目に多くの時間を割くことができます。これは、授業をしっかり理解し、基礎基本の学習を継続して行えば、誰でも実現できるものです。ぜひ、英語4技能の習得に本気で取り組み、グローバルな視点を身に付ける心構えを持っていただきたいと思います。

 三つ目は「リーダーたるにふさわしい資質・能力を身に付ける」ということです。

 皆さんが生きていくのはグローバル社会です。人、モノ、金、情報が瞬時に世界中で繋がっていく社会の中で生きていくことになります。国籍や価値観も異なる多様な人々とチームを組んで、人々のよさを引き出し、それらを束ね、成果へとつなげていくことが求められます。グローバル・リーダーとしてチームで協働しながら新たな知を創造していく能力が求められるのです。クリエイティブなものを創り上げていく前提となるものは、教養だと考えます。幅広い教養の土台の上に高度な専門性を積み重ねたその延長上に、新たな知を生み出していく手掛かりがあるのだと考えます。本校では、様々な科目を幅広く学びます。どの科目も知性と感性・健全な心身を育むために欠かせないものです。まず何よりも本校での授業を大切にして、確かな思考力を身に付けてください。

 また、学習を軸としながらも、行事や部活動などに全力で取り組み、汗や涙を流しながら、熱い3年間を過ごしてほしいのです。そうすれば、自ずと進路実現についても、仲間や先生とともに最後まであきらめることなく挑戦し、頂上へたどり着くことができるはずです。

 保護者の皆様におかれましては、お子様のご入学、誠におめでとうございます。9年間の義務教育を終えられて、希望と期待に胸を膨らませ、高校生としての第一歩を踏み出すお子様の姿を目の当たりにされ、感慨もひとしおのこととお喜び申し上げます。これから3年間、私ども教職員一同、保護者の皆様と手を携えて、お子様の成長を支えていきたいと考えています。このご縁を大切にしたいと思います。ぜひ本校の教育方針を十分ご理解いただき、ご支援とご協力を賜りますようお願い申し上げます。

 それでは、3年後の卒業式の際、ここにいるすべての生徒・保護者の皆様が「蕨高校にきて本当によかった」と思えることを心から願い、式辞といたします。

 令和6年4月8日

                            埼玉県立蕨高等学校長 山本 康義

前期始業式 校長講話

 皆さんおはようございます。令和6年度前期の始業式を迎えました。これから1年間、高校生活に取り組んでいく2年生、3年生の皆さんにエールを送りたいと思います。

 先月25日には、バトン部の全国大会の応援のため、千葉県の幕張メッセに行ってきました。この後表彰があると思いますが、バトン部の皆さんは、高校生のsong&pom部門のスーパーラージ編成で、全国1位の成績を収めることができました。まずはバトン部の皆さん、全国1位おめでとうございます。

 今回は審査員席のステージ向かって右側で観戦しましたが、さすがは全国大会ということで、どの学校の演技もみな完成度が高く、レベルの高さを感じました。本校の演技はスーパーラージということで、人数も多く迫力がありましたが、大きな破綻なく終えることができました。結果、全国1位ということで、日ごろの努力が高く評価されました。見ている人は見ているものだと改めて感じました。

 さて、令和6年度が始まりますが、皆さんも一人ひとり、胸に秘めている決意があるのではないかと思います。本日午後には入学式がありますが、皆さんは、皆さんの入学式で、私が話したことを覚えているでしょうか。

 本校で過ごす「心がけ」としてそれぞれ3点お話ししましたが、皆さんに共通する内容として、「自分の志を立てる」という話をしました。皆さんは、皆さん自身が生涯をかけて成し遂げたいもの、皆さん自身の「志」を見つけることができているでしょうか。

 皆さんは本校で文武両道を実践し、着実に力を蓄えていると思います。高校卒業後は大学で、また大学院で学び、さらにパワーアップした力を蓄えていくのだと思います。

 では、その力を、何のために使いますか。

 自分のために使う。もちろんこれは基本です。しかし、先月の卒業式で取り上げて話しましたが、65期の先輩方の学年目標「人のため」の観点に立ち、皆さんが今後、蓄えていく力を「人のため」に使っていくと考えたならば、どうでしょうか。

 世の中には、解決すべきたくさんの課題があります。課題と言えば、皆さんはすでに、自ら課題を設定し、解決策を考える探究学習に取り組んでいます。

 3年生の皆さんの探究発表会では、災害の際、蕨市内に自生する「雑草を食べて生きることはできるのか」、また、より速く泳ぐために「人間と海中の哺乳類のドルフィンキック」を比較するなど、ユニークな取組が数多く見られました。着眼点が素晴らしく、今後の可能性を感じさせる内容でした。

 世の中にある様々な課題の解決に挑戦することは、「人のため」に自らが蓄えた力を活用することにつながり、「高い志」を立てることにもつながります。そうであれば、皆さんが蓄える力は、より大きく、より強いものである方がよいということになります。志望する大学・学部についても、自分が蓄えたい力を、より効果的に身に付けることができるのはどこなのか、真剣に検討することが必要です。大学には施設や設備があり、教授がいて、そしてともに切磋琢磨する仲間がいます。新しい年度の始まりに際し今一度初心に帰り、皆さんが立てるべき「志」について、確認していただきたいと思います。

 それでは令和6年度が始まります。楽しい学校生活にしていきましょう。以上で校長講話を終わります。

バトン部 全国大会壮行会 校長より激励

 ただ今紹介がありましたが、バトン部の皆さんは、今月25日に千葉県の幕張メッセで行われる全国大会であるUSA School&College Nationals 2024に出場されるということです。

 昨年度に引き続いての全国大会への出場おめでとうございます。

 バトン部の皆さんは、1月に東京都の武蔵野の森総合スポーツプラザで行われた全国高等学校ダンスドリル冬季大会に続き、今シーズン2度目の全国大会出場ということです。

 1月の全国大会は応援に行かせていただき、審査員席のすぐ後ろで観戦しましたが、本校はラージ編成ということで、広いステージいっぱいに展開され、大変見応えのある、迫力のある演技だと思いました。

  25日の全国大会でも、日ごろの練習の成果を大いに発揮して、活躍されることを期待しております。応援しています。

終業式 校長講話

 皆さんこんにちは。令和5年度の終業式を迎えました。

 1年生は、蕨高生としての最初の1年間、2年生は、蕨高校の中核を担う2年生としての1年間、それぞれどうだったでしょうか。明日から春休みを迎えますので、令和6年度という新しい1年間に向け、新たな計画を立てて臨んでいただきたいと思います。

 さて、19日の火曜日には、先日卒業したばかりの65期生による「受験速報会」が行われました。1年後、今度は話し手として登壇している自分をイメージしながら先輩の話を聞いた2年生も多かったのではないかと思います。

 併願校の考え方について話を聞く場面がありました。難関国立大学に合格したある先輩は「共通テストから二次試験までは意外と時間がない。第一志望の二次試験に全力で取り組むためには、私立の併願校は負担の少ない大学を厳選した」と話していました。また、別の難関大学に合格した先輩は「一つの学部で幅広いテーマを扱う大学では、入学してから自分の専攻を決めるところも多い。一つの学部・学科に絞って併願校を決め、全滅するリスクを避けるため、自分はあえて様々な学部・学科を併願した」と話していました。どの先輩も、自分の考えをしっかり持って受験に臨んでいるということが伝わってきました。

 2年生の皆さんは、すでに志望校を決め、いよいよ本格的に勉強に臨んでいくと思います。蕨高セミナーの講師として来校した先輩は、浪人が決まったとき「これから思いっきり勉強できる」とうれしくなったと話していました。私もとても共感できました。勉強することは、本来、とても楽しいことです。皆さんに浪人を勧める話ではもちろんありませんが、充実した楽しい1年にしていただきたいと思います。

 ここで、蕨高校の先輩として、自らの体験を踏まえ、アドバイスを一つ伝えます。それは「チャレンジ校を設定しよう」ということです。

 皆さんは志望校をどのように決めているでしょうか。蕨高校は県南部にあり東京にも近いので、自宅から通学可能な関東近県の国公立大学や、都内にある私立大学などが候補になっている方も多いのではないかと思います。仮に学びたい学部・学科がある場合、皆さんはその学部・学科の最難関の大学を、志望校に挙げているでしょうか。

 私の場合は難関大学の法学部を第一志望に掲げましたが、相当の心理的な抵抗がありました。3年の夏休みに、大宮にあった予備校の夏期講習を受講しましたが、蕨高生がいっぱいいたので、浪人のときは、遠くの高田馬場にある予備校に通うことにしました。

 蕨高生である自分が、難関大学を志望していいのか。当時の私はそんな気持ちを持っていました。多くの皆さんには当てはまらない話だと思いますが、無意識に、遠慮している人はいないでしょうか。自分で自分の力の天井にふたをする必要はありません。

 関東近県の国公立大学を第一志望と考えているのであれば、チャレンジ校として、旧帝国大学などの難関大学を目標とすることを考えてみてください。また、首都圏の私大を第一志望と考えているのであれば、所謂「早慶上理」を目標としてみてください。このことにより、本来の第一志望校の合格率を高めることができると言われています。

 受験速報会の先輩からは、「自分は上位の大学を目指した。就職を考えている企業があり、内定者も多かったから」という話も聞けました。目標と設定する大学により、1年間の学びの質も変わってきます。令和6年度。納得のいく目標を設定して学ぶ楽しい1年にしていきましょう。以上で校長講話を終わります。

後期球技大会 開会式 校長あいさつ

 おはようございます。校長の山本です。

 昨日の卒業式では、準備から片付けに至るまで、ご協力ありがとうございました。

 また、生徒会本部の野島会長には在校生を代表して「送辞」をお願いしましたが、式が終わった後、来賓の方から「送辞の内容が素晴らしかった」とお褒めのことばをいただきました。

 皆さんのご協力をいただいて、よい卒業式を挙行することができたのではないかと思います。

 さて、この球技大会は、3年生が卒業して最初の生徒会行事になります。全体を通して、生徒が主体の運営となります。

 達成すべきミッションは、皆さんそれぞれが、自らの満足度を高めることです。

 生徒会行事ですから、いわゆるオーディエンス、見物するだけの人は一人もいません。皆さん一人一人が主役です。安全には十分配慮しながら、皆さんが定めたルールをしっかり守って、最高に楽しい球技大会にしていただきたいと思います。

 以上で開会式の校長あいさつを終わります。頑張ってください。

議論しよう(生徒会誌『さわらび』第61号校長のことば)

 「校長先生、ちょっといいですか。」

 1年生が校長室に入ってきた。「蕨高校は、なぜ校舎の3階に渡り廊下がないのですか。」

 何でも、探究学習の課題だと言う。ふだん生活しているB棟の3階からA棟の3階に移動する際、2階に降りて進路指導室前を通ってまた3階に上がるのが不便なので思い付いたとのことである。

 自分が感じた何気ない疑問をそのままにしないで調べ、掘り下げていくのは探究学習の原点である。疑問に感じたことを尋ねてくれたことに感謝し、昼休みの短い時間であったが、お互いの意見を交換し、議論した。面接練習以外で生徒が直接校長室に来ることは滅多にないので楽しかった。

 以前校長講話で、難関大学を目指す理由について「自分の力を試したかった」と考える生徒が増えているという話をした。卒業生との懇談会で話してくれた大学生の場合は数学だったが、自分の場合はどうだったかと思い出してみた。代々続いている生徒会誌『さわらび』にちなみ、自分が在学していたころの蕨高校のエピソードを紹介する。

 高校2年次、3年次の担任は国語科の教員で、「議論しよう」が口癖だった。彼が「議論しよう」を連呼した背景には、利害の衝突があった場合、いわゆる「力」ではなく、話し合いで解決することが大切だということを、私たち生徒に根付かせたいとの思いがあったのではないかと推察する。

 2年生のあるとき、授業に関連して、教科担当と生徒との間でちょっとしたトラブルが発生した。担任に相談すると「議論しよう」。放課後に話し合いの場がもたれた。一方的で感情的な生徒のわがままと受け取られないよう、みんなで相談して、生徒の意見を伝えたことを覚えている。

 浪人後、入学する学部をこれまで志望してきた法学部から教育学部に変える際は大いに悩んだが、この2年生のときの「議論」の体験が充実していて楽しかったことを思い出し、弁論を扱うサークルに入ってさらに自分の「議論する力」を試すこととして、自分を自分で納得させた。結果として、いわゆる「部活動」で大学を決めた。

 ところで、今年度の1年生対象の社会人講演会では、講師の本校32期の高山範理氏から、英国留学中、自分の意見を表明しないのは、相手を尊重しないのと同じだということを学んだというエピソードが語られた。自分の意見を言う、相手の意見を聞く、それぞれの利益を主張する議論を経て最適解を導く。こうした姿勢は、今後ますますグローバル化する社会の中で、一層求められて来ることと思う。特に卒業し、それぞれの進路先で活躍する65期生には、これからもこの「議論する力」を磨いてほしい。

 11月には新しく野島生徒会本部も発足した。「議論」することは、少なくとも卒業生である私の中では、蕨高校の伝統である。

 蕨高校生よ、大いに議論しようではないか。

第65回卒業証書授与式 式辞

 暖かな風とともに、花の心地よい香りが本格的な春の訪れを感じさせる今日の佳き日に、令和5年度 第65回蕨高等学校卒業証書授与式を挙行しましたところ、学校評議員 早稲田大学教授 三村 隆男様、PTA会長 目黒 正伸様、後援会会長 前田 智子様、同窓会会長 晝間 日出夫様をはじめ、多数の御来賓並びに保護者の皆様の御出席をいただき、かくも盛大に開催できますことに、改めてお礼と感謝を申し上げたいと存じます。

 65期の卒業生の皆さん、御卒業おめでとうございます。皆さんが本校に入学されたのは令和3年4月。コロナ禍による影響が続く中、本校の伝統行事である臨海学校も、前年に引き続き中止となりました。悔しい思いをした皆さんも多かったのではないかと思います。

 私が本校に着任した令和4年度、皆さんは学校の中核である2年生でした。3年生が次々と部活動を引退し、受験勉強に本格的に取り組んでいく中、本校を力強く前に進めていただいたのは65期生の皆さんでした。まだ数々の制約が残る中、蕨高祭を成功させ、沖縄への修学旅行も実施していただきました。コロナ禍で数々の制約を余儀なくされてきた本校を、ひとつずつ丁寧に、日常の活動へと回復させていった、その先頭には、いつも65期の皆さんがいました。

 最も印象に残っているのは、令和5年1月早朝の教室の様子です。私は日課として朝、校内を歩いています。A棟の3年生が朝早くから登校し、教室で自習している様子を眺めていましたが、その1月の中旬、共通テストの直後から、急にB棟の2階を中心に、早朝から自習している生徒が増えていることに気が付きました。65期の皆さんでした。まだ部活動を続けている人も多かったと思いますが、その目的意識の高さに驚きました。誰に言われたわけでもないのだと思います。自ら考えて行動できるという65期の皆さんの蕨高生としての在り方は、後輩への模範として語り継いでいきたいと思います。

 さて、本日、この蕨高校を旅立っていく皆さんに、校長として、最後のお話をしたいと思います。それは、皆さんの学年目標「人のため」に関わることです。

 この学年目標の趣旨について、学年主任の波多先生に改めて教えていただきました。

 蕨高校は進学校であり、学業の優先は当然であるが、その前に学校は人間育成の場である。登校時間、清掃の時間をはじめ、すべての時間が人間育成のための時間であり、きちんと学校で学ばなければならない。この点を踏まえて設定した、とのことでした。

 私は24期の卒業生ですが、「人間育成」と聞いて、思いあたる点がありました。蕨高校は文武両道、3年間部活動に打ち込み、臨海学校や強歩大会など、学校行事もハードなものばかり。これらの点は伝統なのでしょう。本校は今年で68年目を迎えますが、こうした学校の在り方は、歴代の校長をはじめとする教職員が、その時々において検討を重ね、その結果、現在まで続いているものだと思います。蕨高校の「人間育成」、人間の土台をつくる力には確かなものがあります。

 この学年目標「人のため」ですが、皆さんのこれからの人生において、例えば、就職をはじめ、様々な人生の選択を迫られる場合にも、大切にしていただきたいことばであると思います。

 ところで、皆さんはアップルの共同創業者の一人であった故スティーブ・ジョブズ氏を知っていると思います。彼がつくったスマートフォンである「アイフォン」を持っている人も多いのではないかと思います。彼は多くの名言を残していることでも有名ですが、こんなことばも残しています。

 「顧客はより幸せでよりよい人生を夢見ている。製品を売ろうとするのではなく、彼らの人生を豊かにするのだ」

 これは、皆さんの学年目標「人のため」につながることばではないかと思います。

 皆さんの多くはこれから、大学や大学院などを経て、いずれは仕事に就くことになると思います。「働く」という漢字は「人」が「動く」と書きますが、「働く」とは、誰かの役に立つことです。

 そして、皆さんは「働く」ことで報酬を得て、自らの生計を立てていくことになります。いささか楽観的かもしれませんが、世の中がよくできているなと思うのは、この「人のため」に「働く」という点を突き詰めていくと、より多くの「人のため」になる仕事をした人のところに、より多くの報酬が流れているという事実に突き当たります。

 世界で最も時価総額の高い企業はアップルですが、皆さんの手元にもある「アイフォン」をはじめ、世界中の多くの人々に豊かな生活を提供し、多くの「人のため」になる仕事をしているからこそ、多くのお金が集まっているとも考えることができます。グーグルやアマゾンなどの「ガーファ」と呼ばれるプラットフォーマーについても同じことが言えると思います。それぞれの企業の時価総額が高いところや、お金が集まっているところに目が向きがちですが、様々なイノベーションによって、世界中の多くの人々に豊かな生活を届けていることも事実なのではないかと思います。

 65期の皆さんの未来はまさに無限大ですが、今後の様々な局面で選択に迷った場合は、どちらがより「人のため」になっているかという点にも留意していただきたいと思います。皆さんの中には将来、故スティーブ・ジョブズ氏のように起業する人も出てくるのではないかと思いますが、研究や仕事を進めていく中で、より多くの「人のため」になる成果を上げることで、皆さんの生活も豊かなものになっていくのだと思います。

 蕨高校で改めて出会った「人のため」ということばを忘れずに、今後の皆さんの生活を豊かにしていっていただきたいと思います。

 ここで、保護者の皆様に申し上げたいと存じます。これまで本校の教育に御理解と御協力を賜りありがとうございました。お子様がこのように立派に成長され、新しい人生に旅立つ逞しい姿に、心から祝福を申し上げます。卒業は、本人の努力の結果であることは言うまでもないことですが、それを支えた御家族の皆様の力強い励ましがあったおかげだと思います。このことに対し、心から祝意と敬意を表したいと存じます。

 結びに、本日御臨席を賜りました皆様に重ねてお礼申し上げますとともに、65期卒業生346名の前途洋々たる人生を心から祈念し、式辞といたします。

 

 令和6年3月14日

 埼玉県立蕨高等学校長 山本 康義

「幸せのレール」は隣にある(『蕨高新聞』第163号 巻頭言)

 65期の皆さん、ご卒業おめでとうございます。皆さんの前途洋々たる未来を祝します。皆さんが様々な分野で活躍し、成功を収めることを願っています。

 と、ここまで書いて、皆さんに餞のことばを贈りたいと考えました。せっかくなら、一生のお守りになるようなものがいいと考えて、思い出したのが、ロックミュージシャンである矢沢永吉さんの「サクセスとハッピー」のエピソードです。

 矢沢永吉さんは1949年生まれの74歳。現役のアーティストです。1977年に日本のロック・ソロアーティストとして初の日本武道館単独公演を敢行し、翌78年には「時間よとまれ」が大ヒットするなど、スーパースターとして頂点を極めます。しかし、2001年出版の自伝『アー・ユー・ハッピー?』の中で、次のように述べています。

 「オレは、サクセスしたら、すべてが手に入ると思っていた。そしてオレはサクセスした。金も入った。名誉も手にした。だけど、さみしさは残った。おかしいじゃないか。(中略)ハッピーじゃないなんて。」そして、こう続けています。「そう思ってふと見ると、幸せってレールは隣にあった。オレはそのレールに乗っていなかった。」

 それでも、矢沢さんはこう述べています。「オレは絶対幸せになる。『幸せのレールは隣にある』と『気づく人』だったから。」

 「いい大学」の次は「いい仕事」。出世もしたいし、お金だって稼ぎたい。誰もがそう願っています。でも、矢沢さんは断言しています。サクセスのレールの先にハッピーはない。ハッピーは隣のレールを走っている。

 皆さんには、ぜひ、この隣を走っている「幸せのレール」に「気づく人」になってもらいたいと思います。

次世代のリーダーとして活躍しよう(図書館報『若い樹』校長のことば)

 皆さんは、令和5年夏の甲子園の優勝校を覚えているだろうか。

 神奈川県代表の慶應高校である。

 スタンドを揺らす応援が話題となった。付属校である幼稚舎の児童も応援に駆けつけ、テレビでは「最も若い塾生」と紹介されていた。

 児童、生徒、学生を「塾生」と呼ぶのであれば、「塾長」もいる。

 令和5年1月、日本経済新聞の「リーダーの本棚」欄に、慶應義塾長である伊藤公平氏の愛読書が紹介されていた。タイトルは「職分全うする覚悟を」。全部で8冊紹介されている中で、「戦争はどうやって起こるのか、心の中でずっと気になってきた」というキャプションで取り上げられていたのが『失敗の本質』(野中郁次郎ほか著、中公文庫)。興味が湧き、手にとってみた。

 ところで伊藤塾長は1965年生まれ。私より一つ年下だが同世代である。

 私は昭和39年に生まれている。所謂大東亜戦争が終わったのは昭和20年。戦争が終わって19年後に生まれていることになる。ちなみに昭和39年は、最初の東京オリンピックが開催された年でもある。

 19年。ついこの間である。卒業する65期生の多くは今年19歳になる。2024年から19年前。2005年、平成17年である。

 私の子どものころは「戦争を知らない子どもたち」等の歌がヒットしていて、まさに自分もその一人。もちろん戦争なんて知らないしわからない。そう思ってきた。

 しかし一昨年母校に赴任し、後輩である皆さんの顔を見ているうちに、自分が何か伝えなくてはならないのではないか、そんな風に考えるようになったこともあり、この本を手に取った。

 本書のカバーには「大東亜戦争における諸作戦の失敗を、組織としての日本軍の失敗ととらえ直し、これを現代の組織一般にとっての教訓あるいは反面教師として活用することをねらいとした」と書かれてある。当時の陸軍、海軍ともに「組織」であるから、本文中には「作戦部長」や「作戦課長」などの職名が出てくる。国をはじめ、都道府県や市町村などの自治体、また、民間企業もその多くが、はじめはこうした「組織」の形を参考にして成り立っている。敗戦という日本軍の失敗を「組織」の失敗と捉え、どのようなことに気を付けていけば、同じような失敗を避けることができるのか、共通項を抽出して教訓を得るということが、本書の試みとなっている。

 私は一読して「優秀なリーダーが必要である」ということを感じた。

 本書に出てくる登場人物たちも、はじめから「部長」や「課長」であったわけではない。はじめは誰でも新入社員。一人の担当として社会人生活をスタートさせているはずである。経験を積む中で昇進し、徐々に責任あるポストを任されるようになる。

 私はもちろん教員として社会人生活をスタートさせているが、異動の中で、教育委員会事務局などの自治体職員を経験させてもらったことがある。県や市町村で働かせてもらったが、最初はお互い一担当として一緒に働いた仲間が、時間が経つと課長や部長に昇進している。逆に言うと、「部長」や「課長」も、みんなはじめは隣で一緒に働いていた仲間である。

 こんなことを考えながら本書を読むと、想像がひろがる。「作戦部長」も「作戦課長」も、恐らくその時々で、最善を尽くして情報を集めて案を練り、上席に説明して、直しの指示があれば徹夜で直し、仕事をしてきたはずである。それなのに、である。

 本書の示唆のとおり、日本軍という組織と、現代の日本の様々な組織に、今なお共通する課題があるとすれば、少なくとも意識的でありたいと思う。この本を薦めてくれた伊藤塾長も同世代。思うところがあったのではないかと拝察する。今回は「愛読書」ということであるので、塾生に薦めるというよりは、塾長に就任し、塾長としての職分を全うしたいという思いを込めて紹介されているのだと思う。

 65期生は、これからさらに進学して、ゆくゆくはさまざまな「組織」に所属し、その将来を担っていくことになると思う。本校は「目指す学校像」で「グローバルな視野を持ち次世代のリーダーとして活躍できる人を育てる」ことを謳っている。

 改めて、これからの日本には、優秀なリーダーが必要なのである。ぜひこの本を手に取って、よりよい社会を築いていただきたいと思う。昨年夏の時点で本校の図書館にはなかったのでリクエストしておいた。難解な本ではあるが、興味を持った66期・67期生も、機会があれば手に取ってもらいたい。

 最後に、伊藤塾長は本書の紹介で「できれば戦争に向かうことを止めたい、日本を外交で守りたいですね」と述べている。外国語科を設置している本校は、普通科の生徒も含め、英語が得意である。グローバルな場面におけるタフなネゴシエーションを可能にする英語4技能の習熟は、日本の、世界の平和につながっている。グローバルな社会で蕨高生が活躍する未来は、すぐそこまで来ているのである。